評伝 04 · 共同創業者 / Policy → Anthropic Institute

Jack Clark
— ブレーキのない産業の記録者

Import AI 週刊ニュースレター · GPT-2段階的リリースの設計者 · jack-clark.net

8人の共同創業者のうち、ただひとり研究者ではない。元テック記者。 その出自がAnthropicに与えたものは大きい——この会社の政策発信は ロビイングの文体ではなく、取材と観察の文体で書かれている。

記者からOpenAIへ — GPT-2の「出さない」設計

BloombergやThe Registerでテック産業を取材していた記者が、2016年にOpenAIの Policy Directorに転身する。彼の名を業界に刻んだのは2019年のGPT-2リリース設計だ。 「危険すぎて全公開できない」——モデルを段階的に公開するという当時前例のない判断は 嘲笑も浴びたが、能力の公開そのものを政策判断の対象にするという発想は、 後のRSP(Responsible Scaling Policy)の原型になった。2021年、Amodei兄妹らと共に Anthropicを共同創業。以後、政策・広報の設計者として動く。

Import AI — 週刊の観察日記が政策になる

Clarkの発信の正本は、2016年から一度も止まっていない週刊ニュースレター Import AIだ。論文の要約、政策の分析、そして文末の掌編SF。 共同創業者が毎週、自社に不利なデータも含めて業界を観察記録する—— このニュースレター自体が「Unvarnished(艶をかけない)」の10年分の実績になっている。 2026年にはAnthropic Instituteの責任者となり、社会側の受け皿づくりに軸足を移した。

数字で恐れる — RSI 60%という公開推定

Clarkの語法の核心は、恐れを確率と定義で語ることだ。 再帰的自己改善(RSI)については「maximalist定義で2028年末までに60%」と公開推定し、 その根拠として社内のコードマージが8倍に増えた「prosaic RSI(散文的な自己改善)」を挙げる。 アラインメントの複合誤差については「99.9%→95%→60%」と世代を跨いだ劣化を数式で示す。 そして必ず付ける但し書き——「決定的か? いいや。示唆的か? そうだ」。 断定しないことと警告しないことは違う。彼はその区別の実演者だ。

ガスペダルとブレーキ

2026年6月のBBCインタビューで放った比喩は、彼の10年の観察の要約と言っていい—— 「AI産業にはガスペダルはあるが、ブレーキペダルがない」。同じ取材で 「Anthropicのコーディング業務の80%はすでにClaudeがやっている」と、 自社の加速も隠さず並べた。産休から戻った2026年2月には、Opus 4.6下の社内で 「奇妙なことが起こり始めていた」と記した。加速の当事者でありながら 観察者の距離を保ち続ける——記者出身の共同創業者にしかできない芸当である。

AMPLが盗むべき型

週刊の観察が資産になる

10年続くニュースレターは、どのプレスリリースより強い信頼装置。メルマガの複利と同じ構造

確率で警告する

「危ない」ではなく「60% by 2028」。医療のリスク説明も、確率と定義で語ると説得力が変わる

自社に不利なデータも並べる

加速の当事者が加速の危うさを記録する。利益相反の開示を発信の型に組み込む

出典: Atlas §17.11-A / jack-clark.net (Import AI) / BBC(2026-06)